Share

第40話 それは求婚ですか、政治交渉ですか

last update Tanggal publikasi: 2026-10-24 20:45:47

第40話 それは求婚ですか、政治交渉ですか

婚姻継続意思書へ署名した翌日、リゼットは少しだけ後悔していた。

婚姻を続けると決めたことではない。

そこについては、朝になっても気持ちは変わらなかった。

ヴァルドの妻でいる。

北方に残る。

もっと彼を知っていく。

それは、今の自分が選んだことだと思える。

問題は。

昨夜、記憶帳へ書いた最後の一文だった。

『好きになってはいけない理由も、もうない気がする』

朝。

目覚めて。

最初にそれを読んだ時。

リゼットはしばらく寝台から出られなかった。

「……何を書いているの、私は」

自分で書いた。

誰にも強制されていない。

Lanjutkan membaca buku ini secara gratis
Pindai kode untuk mengunduh Aplikasi
Bab Terkunci

Bab terbaru

  • 「妹の呪いを代わりに受けろ」と婚約者に命じられましたので、王都を捨てます ~記憶を失う私に、辺境公爵だけが「忘れても、何   第44話 公爵様は私を甘やかしすぎです

    第44話 公爵様は私を甘やかしすぎです王都から来た使節との面談を終えてから三日ほど経った頃、リゼットは、自分の生活がいつの間にか妙に不便になっていることに気づいた。最初は、医師の指示だと思っていた。祈紡ぎを使った大規模な儀式の直後であり、三日間も意識を失っていたのだから、療養が必要なのは当然である。仕事時間を短く制限されたことにも納得していたし、長時間歩くなと言われれば守った。食事を抜けば体力の回復が遅れると言われ、以前より意識して食べるようにもなった。ところが、身体が回復して医師からの制限が少しずつ緩んでも、なぜか生活の不自由さだけがほとんど変わっていない。そのことを決定的におかしいと思ったのは、朝食後に資料室へ向かおうとしていた時だった。「リゼット様、こちらを」廊下へ出たところで、若い騎士が当たり前のようについてきた。リゼットは足を止める。「どちらへ?」「資料室までお供します」「資料室は、この廊下を曲がって階段を一つ下りるだけですよね」「はい」「一人で行けます」騎士は困った顔をした。「ですが、閣下から、リゼット様がお一人で砦内を移動される場合には、できるだけ誰かをおつけするようにと」リゼットはしばらく黙った。「……いつからですか?」「いつから、と申しますと」「その指示です」騎士の視線が泳ぐ。その反応で、嫌な予感は確信へ変わった。「答えていただいて大丈夫です。あなたを怒ったり、公爵様へ告げ口をしたりはしません」「いえ、そういう問題では」「では、いつから?」観念したらしい。騎士は小さく息を吐いた。

  • 「妹の呪いを代わりに受けろ」と婚約者に命じられましたので、王都を捨てます ~記憶を失う私に、辺境公爵だけが「忘れても、何   第43話 あなたを忘れても、嫌だったことは身体が覚えている

    第43話 あなたを忘れても、嫌だったことは身体が覚えている王都からの正式な使節が北方砦へ到着したのは、アルベルトへ返事を送ってから四日後だった。今回の目的は、婚姻無効を巡る法的照会について、リゼット本人の意思を直接確認することだった。書面だけでは北方公爵家に書かされた可能性がある。そんな主張を後から持ち出されるくらいなら、自分の口で話したい。それを提案したのはリゼット自身だった。だから使節が来ると知らされた時も、それほど動揺するとは思っていなかった。少なくとも、頭では。「使者の代表は、ハインツ・デルヴァ伯爵だ」会議室へ向かう前、ヴァルドからそう聞かされた瞬間、リゼットの足は自分でも分かるほど不自然に止まった。「……ハインツ様」名前は覚えている。王太子付き近衛隊副長。以前、王都から北方へ来て、リゼットを連れ戻そうとした人物。婚姻成立後には、その事実を認めざるを得ず、王家による祈紡ぎの「管理」についても口にした。そこまでは記憶帳からだけではなく、自分自身の記憶として残っていた。ただし、ところどころ曖昧だ。どんな顔で何を言われたのか、細かなやり取りまでははっきりしない。「会うのをやめてもいい」ヴァルドがすぐに言った。リゼットは彼を見る。「まだ何も言っていません」「顔が嫌そうだった」「最近、本当に何でも顔で判断しますね」「便利だからな」少しだけ笑いそうになったが、胸の奥にある硬さは消えなかった。「会います」「無理をする必要はない」「無理をしているかどうか、私が決めます」

  • 「妹の呪いを代わりに受けろ」と婚約者に命じられましたので、王都を捨てます ~記憶を失う私に、辺境公爵だけが「忘れても、何   第42話 昔の婚約者から、今の私へ

    第42話 昔の婚約者から、今の私へ王太子アルベルトからの手紙が届いたのは、新しいペンをもらってから二日後のことだった。それは王家法務局の正式文書とは別便で送られてきた。王家の封蝋ではない。王太子個人が使う、金の獅子と百合を組み合わせた紋章。リゼットは、その封筒を見ただけで誰からのものなのか分かった。記憶は残っている。アルベルトのことは。幼い頃から婚約者だったこと。一緒に王宮の庭を歩いたこと。勉強をしたこと。叱られた時に慰めてもらったこと。そして。最後。ミレイユの呪いを引き受けろと言われたこと。『もし私のことを忘れたとしても、また思い出を作ればいい』あの言葉も。まだ。覚えている。だから。封筒を受け取った瞬間。指先が少し冷たくなった。「開けるか?」向かいにいたヴァルドが尋ねる。場所は小会議室だった。法務官も。ノエルもいない。王都から個人的な手紙が届いたと聞き、ヴァルドが一度リゼットへ直接渡すことにしたらしい。「私宛てですよね」「ああ」「なら読みます」「今でなくてもいい」「今読みたいです」ヴァルドが少しだけ眉を寄せる。「無理をするな」「無理かどうかは、読んでみないと分かりません」言ってから。少し笑う。「また、先に決めようとしました?」ヴァ

  • 「妹の呪いを代わりに受けろ」と婚約者に命じられましたので、王都を捨てます ~記憶を失う私に、辺境公爵だけが「忘れても、何   第41話 黒狼公爵の贈り物は可愛くない

    第41話 黒狼公爵の贈り物は可愛くないヴァルドが贈り物について悩んでいるらしい。そんな話をリゼットが耳にしたのは、本人からではなかった。昼前、資料室へ入った途端、ノエルが妙に気まずそうな顔で机の上の紙を裏返したのである。「今、何を隠しました?」「何も隠していません」「では、その紙を見せてください」「これは業務とは関係のない紙なので」「余計に気になります」ノエルは目を逸らした。その隣でガレスは黙々と仕事を続けているが、いつもより筆の動きが速い。こういう時のガレスは、絶対に事情を知っているのだとリゼットも最近分かってきた。「ガレス」「私に振らないでいただけますかな」「まだ何も聞いていません」「聞かれる前にお断りしておきます」「それなら、やっぱり何かあるのでしょう?」返事がない。リゼットはノエルへ視線を戻した。「見せてください」「嫌です」「どうして?」「俺の命が惜しいので」「そこまで?」「大げさではありません。閣下に知られたら、本当に一週間くらい嫌な仕事を回されます」それは少し見てみたい。いや、違う。「公爵様に関係するものなのですか?」ノエルが黙った。答えたも同然だった。リゼットは机を回り込もうとする。ノエルが慌てて紙を持ち上げ、背中へ隠した。「リゼット様」「何です?」「夫婦でも、見ない方がいいものはあります」「それは正論ですけど、今言われると怪しすぎます」

  • 「妹の呪いを代わりに受けろ」と婚約者に命じられましたので、王都を捨てます ~記憶を失う私に、辺境公爵だけが「忘れても、何   第40話 それは求婚ですか、政治交渉ですか

    第40話 それは求婚ですか、政治交渉ですか婚姻継続意思書へ署名した翌日、リゼットは少しだけ後悔していた。婚姻を続けると決めたことではない。そこについては、朝になっても気持ちは変わらなかった。ヴァルドの妻でいる。北方に残る。もっと彼を知っていく。それは、今の自分が選んだことだと思える。問題は。昨夜、記憶帳へ書いた最後の一文だった。『好きになってはいけない理由も、もうない気がする』朝。目覚めて。最初にそれを読んだ時。リゼットはしばらく寝台から出られなかった。「……何を書いているの、私は」自分で書いた。誰にも強制されていない。眠気に負けていたわけでもない。昨夜は確かにそう思った。だから。消すのも違う気がする。しかし。この記憶帳は。ヴァルドも読む。そこ。完全に忘れていたわけではない。でも。書いている時には。ほとんど意識していなかった。「公爵様が読んだら」顔が熱くなる。好きになってはいけない理由もない。これは。かなり。危険な文章ではないだろうか。好きです。ではない。でも。好きになるかもしれません。くらいには。読める。いや。

  • 「妹の呪いを代わりに受けろ」と婚約者に命じられましたので、王都を捨てます ~記憶を失う私に、辺境公爵だけが「忘れても、何   第39話 今の私も、この結婚を選びます

    第39話 今の私も、この結婚を選びます翌朝、リゼットが目を覚ました時、最初に見たのは枕元の記憶帳だった。昨夜書いた最後の一文。『今の私が、この結婚を選びたいと思えたら、その時は自分の名前で答えたい』そこまで書いて眠った。答えはまだ出ていない。そう思っていた。けれど、一晩眠ってみても、胸の中に残っている感情は変わらなかった。ヴァルドに婚姻を解消しても構わないと言われた時。嫌だった。王都へ戻れと言われるのも嫌。昔の婚約へ戻されるのも嫌。それ以上に。ヴァルドの妻ではなくなることを想像した時、胸の中から何かを引き抜かれるような感覚があった。恋。なのかもしれない。まだ、その言葉を簡単には使いたくない。けれど。ここにいたい。それは。もう。かなりはっきりしている。「……そういうことなのかな」独り言。誰も答えない。だから。自分で考える。この結婚が始まった理由。王家から自分を守るため。強制的に王都へ連れ戻されないため。恋愛ではなかった。ヴァルドも。自分も。そこは正直だった。でも。始まりの理由と。今続けたい理由が。同じである必要はない。リゼットは寝台を出た。顔を洗う。着替える。

Bab Lainnya
Jelajahi dan baca novel bagus secara gratis
Akses gratis ke berbagai novel bagus di aplikasi GoodNovel. Unduh buku yang kamu suka dan baca di mana saja & kapan saja.
Baca buku gratis di Aplikasi
Pindai kode untuk membaca di Aplikasi
DMCA.com Protection Status